往年の名ドライバーで構成される、レジェンド・レーシング・ドライバーズ・クラブ(LRDC)のメンバーによる、VITA-01を用いたエキシビジョンレース『AIM The Legend’s Club Cup 2018』が、富士スピードウェイで開催された。それはもう、錚々たる光景だった。
いつもの見慣れたマシンがパドックやグリッドに並んでいるのだが、脇に立っていたり、コクピットに収まっているドライバーが違うだけで、こうも雰囲気が違うのかと。特にKYOJO-CUPだと華やかなムードを感じるものだが、一転して荘厳という印象だ。しかしながら、そう思っているのは、どうもこちら側だけのようで、レジェンドたちだけでなく、脇を囲む方々の表情は一様に朗らかだ。
きっとレジェンドたちは、久々に乗り込んだレーシングカーのコクピットの感触に酔いしれ、そして囲んだ方々の家族だったり、仲間だったりは懐かしい姿を微笑ましく感じ、またかつてのファンならば、憧れの存在のそばにいられることを非常に嬉しく感じているのだろう。何にしろ雰囲気は悪くない。
マシンは、このレースのためだけに用意されたのではなく、KYOJO-CUPやFCR-VITAで使用されるそのもので、オーナーのご厚意によってレジェンドたちに貸与された。公正を期すため、抽選によってマシンは割り当てられたが、そのことを残念がっていたのが見崎清志選手だった。72歳の今も現役で、しかも操っているのはVITA-01そのもの! FCR-VITAのみならず、鈴鹿クラブマンの耐久レースにも積極的に参加しているからだ。
ところが、その見崎選手が予選でアクシデントに見舞われる。割り当てられたマシンが、直前のFCR-VITA決勝で駆動系トラブルに見舞われ、修復を余儀なくされたのだ。ようやく走り出せる……というところで、無情にも予選は終了してしまい、決勝には最後尾スタートを余儀なくされたからである。
さて、その予選だが、最年少61歳でほぼ現役に相当する中谷明彦選手を、コンマ2秒差で下してポールポジションを獲得したのは、レジェンド中のレジェンド、日本人初のフルタイムF1ドライバーの中嶋悟選手! そして中谷選手に続いたのは、KYOJO-CUPのプロデューサーでもある、関谷正徳選手だった。「インチキだと言われるのが嫌だから、練習は一切していないよ」と語るが、それは素直に信じよう。この3人は2分3秒台で並び、決勝も大接戦となる予感が。
以下、トップ6は柳田春人選手、長坂尚樹選手、黒澤元治選手と、今も腕に覚えのあるお歴々が並ぶ一方で、7番手につけたのは今大会最年長となる多賀弘明選手、御歳84歳! 「○いて、ますます盛ん」とは、まさにこのこと。もはや感服の感すら覚えたほどだ。中には計測1周だけで戦意喪失、決勝出走を断念された方もいたが、それはまぁ、そういうことで……。
グリッドではIKURAさんによる国歌独唱の君が代が流れ、レジェンド達にとって感慨深いものに。
15名が挑んだ決勝レースはローリングスタートから開始され、猛ダッシュを見せた中谷選手ではあったが、1コーナーまでにトップに立つことはできず。しかし、早々と中嶋選手と中谷選手、関谷選手の順でトップグループが形成されて、後続を引き離していった。一方、見崎選手はオープニングの1周だけで7番手に浮上。
2周目の1コーナーで、中谷選手がトップに立つと、そのまま逃げの構えに出る。ダンロップコーナーでは、関谷選手が中嶋選手をかわして2番手に浮上。さらに見崎選手も6番手へ。4番手を争い合っていた長坂選手と柳田選手の背後につけると、5周目には躊躇なく見崎選手は、ふたりを相次いでかわしていく。表彰台に手が届くところまで上がってきたが……。
「そこまでいくまでに時間がかかり過ぎた。違うチームのクルマだから気を遣っちゃうし、やっぱり微妙に操縦性も違うので、今ひとつ行けないところもあって。あと2周欲しかったね、見えてきましたから。(最後尾からのスタートで)ストーリーとしては最高だったし、僕も正直言って勝てるだろうと思っていたんですよ。まぁ、仕方ない。楽しかったから。でも、僕の目標は土曜日のレース(FCR-VITA)で勝つことだから、やっぱりね!」と見崎選手。本気だ。
そして、8周のレースを5秒差で制した中谷選手は「30年以上レースをやっているけど、初めて家族がレースを見に来たんですよ。だから抜かれたくなかったし、女の子(KYOJOドライバー)が2分フラットで走っていたでしょう? そこに近づけたかったんだけど、全然足りなかった(苦笑)。みんな、すごいね。あれより3秒速く走っているんだから。もちろん本気で走りました。相手は先輩方だから、手を抜いちゃえば失礼だし。でも、来年から声かからないんじゃないですか、当分、『あいつは70過ぎるまで、やめておこう』って(笑)」と本音をちらり。
そして中嶋選手に続く3位でゴールの関谷選手は、「いつもKYOJO-CUPを間近に見ているから、こんなふうに乗るんだなっていうのは分かっていたつもりなんだけど、乗りこなせなかったっていうか、かなりアバウトになっていましたよ(苦笑)。ただ、中嶋さんとバトルさせてもらって、みんなが喜んでいるのを想像しながら走っていたので、逆に良かったですよ」と、実に満足そうだった。
他にも高橋国光選手と黒澤選手によるバトルも繰り広げられて、観客は大興奮。ゴール前のストレートでスリップストリームから抜け出して、高橋選手がコンマ2秒差で逆転する様子など、「見に来て良かった。冥土の土産にもなる」とさえ感じたオールドファンもいたのでは。何はともあれVITA-01によるレジェンドたちのレースは、大盛況のうちに幕を閉じることとなった。(あえて敬称を『選手』としてつけさせていただきました!)
記事: 秦 直之 さん