今年も鈴鹿クラブマンレースは全国のシリーズに先駆け、2月17日に幕を開けることとなった。
VITA-01によるクラブマンスポーツのエントリーは、実に26台! 昨年も同じ東コースでの開催だったが、わずか13台だったことを思えば、まさに雲底の差というか。残念ながら、予選までに2台がリタイアしてしまったものの、スーパーFJをも超えて全レース最多であったのは、実に誇らしくもある。
今年はレギュレーションに若干の変更もあって、使用するエンジンによって最低重量が分けられた。
ヴィッツNCP13の、いわゆるユーズドエンジンは600kg、そしてNCP131の新品・封印エンジンは615kgに。
その違いを一目瞭然とすべく、ロールバーには識別重量記載ステッカーが貼られることになった。
また、連勝すると最大30kgのウエイトハンディが課せられることとなったが、こと今回は最初のレースということで実施されず。
なお、これまではクラブマンスポーツでは70番以降とされたゼッケンが自由になったのと、3桁ゼッケンが禁止されたことで、同じドライバー、同じマシンであって昨年とはゼッケンが異なるケースがいくつかあったが、まぁ慣れるのは時間の問題だろう。
さて、昨年のチャンピオンである米田弘幸、2位の西村和真こそ卒業を果たしたが、
3位の中里紀夫以下ランキング上位陣は、ほぼ全員姿を見せているだけに、引き続きハイレベルな戦いが期待できそうだ。
その予選は吹く風は少々冷たいものの、青空の下で競われた。
真っ先に57秒台に入れた中里が、しばらくトップに立っていたが、ほぼ折り返しのあたりで上回ったのがいむらせいじだった。
そのまま逃げ切りなるかと思われたものの、
ラストアタックを完璧に決めた鍋家武が57秒289をマークして、トップに躍り出るとともに、新たなレコードタイムを樹立した。
① No.78 鍋家 武 選手
② No.1 中里 紀夫 選手
③ No. 21 いむらせいじ 選手
また、ほぼタイミングを同じくして、中里も再びタイムアップ。いむらのタイムを上回って2番手につけ、4番手には八木智が、そして5番手にはFCR-VITAこと富士シリーズの常連、遠藤浩二がつけることとなった。
④ No.83 八木 智 選手
1周が短い東コースとはいえ、ポールポジションの鍋家から1秒以内に15人がずらり! 決勝レースも大激戦となることは必至だった。
鍋家武(ポールポジション)
「練習から手応えはあったんですが、なかなかタイミングが合わなくて。これだけ台数がいるとねぇ。最後に思いっきり間隔を空けることができて、ようやくクリアラップが取れたので、なんとか!といったところです。レースでは、できれば逃げたいんですけどね」
引き続き天気に恵まれた決勝レースは、17周で争われた。
注目のスタートを誰より決めたのは中里。
鍋家との予選タイム差は、コンマ2秒にも及ばなかったが、「このコース、このクラスでは僅差じゃなく、けっこうな差なんです。
最後、ガス欠気味になっちゃったというのはありますけど……」と語っていただけに、この瞬間に賭けていたのは間違いない。
中里は鍋家を抑えて1コーナーにトップで飛び込み、ひとつポジションを上げた八木と、さっそく三つ巴でのトップ争いを演じることとなる。
その後方ではいむら、7番グリッドからふたつ順位を上げた伊藤直登、松田剛志による4番手争いも同様に激しく争われる。
オーバーテイクポイントの少ない東コースだけに、逆転には相手のミスを待つしかない。
しかし、トップを争うのはいずれもクラブマンスポーツの手練ればかり。
だが、そんなバトルの分かれ道となったのは、終盤に現れたバックマーカーたち。
トップを行く有利さは確実にあって、中里はスムーズに抜いていったのに対し、やや手間取ってしまった八木は遅れを取ってしまう。
それでも鍋家はぴたりと貼り付いたまま。そんな強烈なプレッシャーに屈することなく、中里は辛くも逃げ切りを果たし、昨年の第5戦以来となる勝利をおさめることとなった。
「スタート失敗した……。でも今回は完走できました、無事に。何事もなく(笑)」と、鍋家は2位に甘んじたとはいえ、クリーンなバトルができたことに満足そうだった。
3位は八木で、4位はラスト2周でいむらをかわしていた伊藤が獲得。
松田は7周目のコースアウトが響いて、15位でゴールするのが精いっぱい。
そして予選13番手から着実に順位を上げていた、関正俊が6位となった。
中里紀夫(ウィナー)
「スタートが決まったね! なかなか離せず大変だったけど、なんとか逃げられて良かった。バックマーカーをスムーズに抜き続けられたという運も、少しあったかもしれませんね!」
クラブマンスポーツに新たなチャレンジャーが登場した。6月22〜23日に開催されるVITA OF ASIAをターゲットとして、昨年までFCR-VITA、すなわちVITA富士シリーズを戦っていたドライバーたちが、戦いの舞台を鈴鹿にも求めたのだ。
いむらせいじや山本龍に続いたのは、遠藤浩二と眞田拓海だ。
遠藤はまた、GR 86/BRZレースのクラブマンシリーズで、2015年に初代チャンピオンに輝いたドライバーであるとともに、音楽プロデューサーでもあり、ドラマ「とと姉ちゃん」や映画「無限の住人」など数多くのヒット作を手がけている。
きっと一度は誰もが耳にしているのではないだろうか。
「86では何度も走った鈴鹿ですが、今回がVITAでは初めてですし、実は東コースでレースするのも初めてなんです」
と語る遠藤ながら、経験豊富なドライバーたちを相手に、予選では一時2番手につけ、その後やや伸び悩んでしまったものの、それでも5番手につけることとなった。ただ、その結果にも少々不満そう。
「予選ではもう1トライするつもりでしたが、うまく場所取りできなくて。どこ行っても引っかかっちゃうんで、これだけの台数だと。そこが難しかったですね。目標は57秒前半(実際には、ポールからコンマ3秒遅れの、57秒589)だったんですけど……」と遠藤。
決勝ではスタートで出遅れてしまったのが、惜しまれるところだ。7番手に後退した後、激しいバトルを繰り広げたものの、最終的な順位は9位に。初めてのレースで、まずは洗礼を受けたということか。
これまでツーリングカー一筋、86でチャンピオンを獲得した後も、スーパー耐久やロータスカップジャパンなどを戦ってきた遠藤にとって、昨年から乗ることとなったVITAは刺激的な乗り物だという。
「去年はVITAで富士を4回ぐらい走らせてもらったんですけど、86よりも軽いんで、楽しいですね。難しいけど(笑)。
特に鈴鹿は難しいです。もうちょっと練習しないと」と遠藤。
今年はVITA OF ASIAをメインのターゲットとし、富士と鈴鹿の両シリーズを戦うという。
一方、もうひとりの眞田は予選を前にリタイアを喫している。練習中のアクシデントで、マシンは走行不能な状態になってしまったためだ。
「練習ではトップタイムが出せたんです。中古のタイヤでも予選2番手の方と、ほぼ同じぐらいのタイムだっただけにニュータイヤ履いて、予選を走っていたら……。好調すぎて、前しか見えなかったというか、視界が狭くなっていたんですね。1〜2コーナーでスピンしたクルマがいて、避けようとしたんですが戻ってきたところにぶつかって、という感じでした」と眞田。
フロントに大きなダメージを修復可能であれば、「徹夜も覚悟で」と思っていたそうだが、今後のことを考慮して断念したという。「僕にもうちょっと余裕があれば……」と眞田は悔しがる。これが最初の試練。というのもレースデビューは昨年で、いきなり3位表彰台へ。ランキングでも3位に輝いたドライバーは、シミュレーションや広場トレーニングできっちり練習を重ね、実力を認められてからシートを得た存在だけに、それまでは順風満帆だったからだ。
しかし、これで終わりではない。「今年は鈴鹿がメインになります」と眞田。
練習で見せたスピードを、今後はしっかりとリザルトで示してほしいものである。
記事: 秦 直之さん